【コラム】業務マニュアルのツボ(もしくはドツボ)

連載 第1回 2009年9月15日

わたしたちマイクロメイツが開発するマニュアルの周辺で何が起こっているのか、また何を考え、何を大切にしているのか。マニュアルをめぐるさまざまな現象を“非科学”的に考察し、みなさまと共有したいと思います。第1回は、業務マニュアルの“ツボ”について。

難易度が高い業務マニュアル

わたしたちが開発しているマニュアルは主に操作マニュアル、取扱説明書、そして業務マニュアルがあります。そのなかでも、業務マニュアルは難易度が高いと言われているようです。何をもって難しいとするかは案件ごとの条件によって異なりますし、操作マニュアル、取扱説明書でも、かなり苦労する案件もあります。
ただ、業務マニュアルの難しさの要因には、システム操作やソフトウェアの使い方のように機能がはっきりしていない、仕様書等の明確な資料がない、といったことがあるようです。確かに業務は多種多様で、個人がそれぞれ進めている業務には専門性が高く、つかみどころがなく、ルール化するのが難しい領域もあります。それを第三者であり、その業務に初めて触れるわたしたちがヒアリングをしながら理解し、文書化するのは、たいへんな作業であることは事実です。

A社のダメ出し

さて、業務マニュアルの難しさについて、具体的にわたしたちが経験した例をご紹介しましょう。
サービス業のA社では、社内業務の標準化と可視化はもちろん、お客様との情報共有にも使える業務マニュアルを希望されていました。ただ、繁忙期になる前に制作しなければならず、時間的に制約がありました。
いつものように提供された資料を分析し、編集・構成を頭に描きながら、10数種類ある業務それぞれの担当者とヒアリングを行いました。しかし、限られた時間で多様な業務を把握し、業務の流れを手順として描写し、さらに背景情報や概要を理解してわかりやすくチャート化するのは困難。しかもテンプレートも制作しなければなりません。
ただ時間は待ってくれません。スケジュールを守り、全体をまとめた原稿を提出して、第1回の社内レビューを依頼しました。果たしてその結果は、厳しいダメ出しでした。「わたしたちの望んだ内容が盛り込まれていない」「今まで何を聞いていたのか」「渡した資料が単にまとめられているだけ」。確かに限られた時間のなかで最善は尽くしたものの、消化不良の部分も多く、アイデア不足であったのは事実。一方で、それほどA社の期待値も高かったのだと思います。
ところで、マニュアルの制作過程で、最初に提出し、確認してもらう原稿は大きな意味をもっています。この段階である程度、お客様のイメージするものに仕上がっているのが理想ですが、業務マニュアルの場合は、そうならないことがほとんど。ここを出発点に、お客様に修正点や必要な情報を赤入れしてもらい、さらにヒアリングを重ねることで、少しずつ内容が正確になり充実していくことについて、ご理解いただくことが重要になります。

担当者のメンタリティと業務マニュアル

また、一般に業務マニュアルの開発には、お客様の担当者のメンタリティが深くかかわります。特に業務内容を説明してもらうヒアリングにおいて、スペシャリストである担当者のその時々の精神性を読み解き、いかに良い関係を結べるか。それをベースに、業務の流れやノウハウをいかに聞き出すかが、業務マニュアルをつくる際のポイントだと言っても過言ではありません。さらに、マニュアルづくりは日頃忙しい担当者にとって余計な仕事。ヒアリングは、とても貴重な時間なのです。
A社の場合は、やはり時間的制約が大きかったようです。ヒアリング段階でわたしたちも業務内容の理解にまで至ることができませんでしたし、信頼感を醸成することができなかったのかもしれません。
反省すべきは反省して、A社に最初の原稿を出発点にマニュアルづくりが改めてスタートすることをご説明し、なんとか理解を得て、次の段階へ進んだものの、残された時間は限られています。ここから、わたしたちのスパートが始まりました。

「来週、手伝ってもらえますか?」

業務マニュアルは、わたしたち制作者が業務の流れを理解し、それを的確に文書化して、ユーザーにとって見やすくわかりやすく編集・構成しなければなりません。しかし、繰り返しますが、そこに至る過程でどれだけ担当者に胸襟を開いてもらい、信頼していただけるかが勝負の分かれ目。「来週忙しいから、手伝ってもらえませんか?」と冗談で担当者に言っていただければ、OK。まさにツボにはまった、という感じです。
しかし、ヒアリングを重ねてもなかなか打ち解けられず、「こいつわかってないな」という空気がいつまでも続くようであれば、それはまさにドツボ。出口が見えない状況で、もがき苦しむことになります。
A社の場合はその後、わたしたちの業務の理解が進み、さまざまなアイデアを加えて修正版を提出。さらに何度か提案・修正を繰り返して、最後は「おかげですばらしいマニュアルに仕上がった」と評価していただきました。

A社のような予想外のスリリングな展開があるのも、業務マニュアルの醍醐味かもしれません。ただ、ドツボだけは避けるために、ヒアリングに集中の毎日です。